たこ焼き

私は昨夜無性にたこ焼きが食べたくて、寝付けなかった。
布団の中で、目を瞑ると酸味のあるソースがかかったたこ焼きが浮かんでくる。

こういうことは時折ある。
私はそういうとき、想像で食べてみる。
頭の中でその物の形や色を思い浮かべたら、一口齧ってみる。
そして、どんな食感か、どんな味かに集中すると、口の中にその物の味が広がり、まるで食べてるような気になるのだ。
数年の海外生活で、想像で食事ができるようになりました。
この方法で、納豆もそばも刺身も食べてきました。


昨夜も想像の中で食べようとしたのだけど、うまくいかなかった。
原因は私がたこ焼きの正解の味を未だ理解できていないことにあると思う。

子供の頃食べるたこ焼きといえば、テイクアウトのたこ焼きだった。
長方形の箱に横3個縦4個計12個がぎゅうぎゅうに詰められたたこ焼きは、箱から出すと、サイコロ状になっていた。具はタコとキャベツ、後は小麦粉がみっちりと詰っている上に、ソースがべったり塗られていて、青のりと紅ショウガが乗っていた。
私は、たこ焼きとはそういう食べ物だと思っていたので、テレビなどで、「外がカリッ、中がとろっ」とたこ焼きが形容されるのを聞く度に、自分の知っているたこ焼きとの違いに不思議になった。私が知っているたこ焼きは全体的に「べちゃっ」としていた。

自分が知っているたこ焼きが、世間で言われるところのたこ焼きではないと知るのは、大学生になってからだ。
大阪出身の友人と話しているうちに、お互いが指しているたこ焼きに相違があることに気がついた。
私が子供の頃よく食べていたたこ焼きの話をすると、友人が「それはたこ焼きではない。たこ焼きというのはもっと粉が少なくて、ふわふわしているものだ」と言い切ったのだ。
衝撃だった。私が幼い頃から食べていたたこ焼きだと思っていたものが、たこ焼きではなかったなんて…。
しかし、粉物の本場、大阪出身の友人が言うのだから、間違いがないのだ。
では、本物のたこ焼きとは一体…?

数年後、銀だこでたこ焼きを食べ、初めて「外がカリッ、中がとろっ」を体験したのだが、これが世間の人が言うおいしいたこ焼きなのか、わからない。「カリッ」が揚げたような食感を指すのか、「とろっ」が半生のような小麦粉の事を指すのか、どうも腑に落ちない。
たぶんこれは私が正解のたこ焼きに辿り着いていないからだと思うのだが、どうなのか。

昨夜味が再現できなかったことがよほど心残りだったのか、何なのか、今日お昼を食べようと思って行ったフードコートに「銀だこ」を発見。ただの偶然だと思うが、そんなに食べたかったのか、と自分に呆れた。

開店直後に行ったせいなのか、外はあまりカリッとしてなかったけど、とりあえず念願のソース味の物が早々に食べられたのはラッキーだった。もう少しソースが掛かっていれば…、と思ったが、マヨネーズも台湾の甘いマヨネーズじゃなかったし、贅沢は言うまい、と大人しく口を動かした。